政界の最前線に目を転じると、また異なる言葉の生態系が見えてくる。自由民主党の党本部や国会内、とりわけ衆議院の予算委員会などの現場では、議員や官僚たちが口にするのは圧倒的に「総理」である。
政治学の観点からも、この言葉の選択には興味深い心理的効果が指摘されている。永田町の政治家同士の会話において「総理」と呼ぶ場合、そこには敬意や与党内の身内感、行政トップに対する対峙の重みが込められる。これに対し、「首相」という言葉は、客観的・学術的に政治構造を描写する際や、他国の首脳と比較対比する論評で使われることが多い。身内の政治空間か、客観的な報道空間かという文脈の違いが、言葉の選択を決定づけている。