なぜ既成曲をそのまま使わず、わざわざ手間のかかる合体編集を施したのか。その背景には、当時の『全日本プロレス中継』(日本テレビ系)を支えていた音響効果スタッフの並々ならぬこだわりがありました。
スペクトラムの原曲『SUNRISE』は、実は非常に軽快なドラムカウントから始まる、洗練されたフュージョン・ファンク調のナンバーです。曲単体としては傑作であるものの、「超暴走機関車」と呼ばれた巨漢ハンセンの圧倒的な威圧感を表現するには、立ち上がりの重厚さが不足していました。そこで音効担当者は、ケニー・ロジャースの楽曲から重厚なイントロを切り取り、スペクトラムのメインリフへとドッキングさせる手法を選びました。
さらに、テレビ放送用や会場使用テープでは、曲の繋ぎ目に「ドカン!」という重低音の破裂音(爆発SE)を挿入。この工夫によって、「何かが起こる」という期待感と恐怖が煽られ、観客総立ちの狂乱空間が生み出されました。デジタル編集機材が存在しなかったアナログオープンリール時代に、テープの物理的な切り貼り(スプライシング)で作られた職人技の結晶です。