本作のストーリーを語る上で欠かせないのが、ヒロインの役名にまつわる嘘と葛藤です。東京大学理学部という最高学府に在籍しながら、就職活動では連戦連敗。エントリーシートを何十社も送り、不採用通知に打ちのめされていた彼女が、IT企業「NEXT INNOVATION」の会社説明会に足を運んだところから運命が動き出します。
社長である日向徹から無能だと罵倒され、感情を昂らせた真琴が咄嗟に口にした偽名――それが「澤木千尋」でした。この名前は、心因性認識障害を抱え人の顔と名前を覚えられない日向が、唯一探し続けていた実の母親と同姓同名でした。幼少期に自分を捨てた母の名前を覚えている日向の心理的弱みにつけ込む形となったこの嘘は、彼女にとって拭い去れない罪悪感の種となります。
心理学における「防衛機制」の観点から見ると、真琴の行動は極限まで追い詰められた自己防衛と、圧倒的なカリスマに対する強烈な承認欲求の表れでした。自著や当時の特番インタビューにおいて石原さとみ自身も、真琴の抱える後ろめたさと「必要とされたい」と願う切実な思いのバランスを模索しながら演じたと述懐しています。やがて嘘が暴かれ、激しい拒絶に遭いながらも、真琴は「偽名の女」から「替えの利かないビジネスパートナー」へと泥臭くステップアップしていくことになります。