「庭に実ったオリーブを子どもがそのまま食べて吐き出してしまった」「野鳥さえも熟した実をつつかないのはなぜか」という相談が園芸コミュニティや農事相談窓口に毎年数多く寄せられます。結論から言えば、オリーブの実の生食は厳禁です。毒キノコのような致命的な急性毒素ではないものの、果実内に高濃度で蓄積されたポリフェノール配糖体「オレウロペイン(Oleuropein)」が、人間の舌には耐えがたいほどの強烈な収斂性(エグみ・苦味)をもたらします。
植物生理学の見地から見ると、オレウロペインは種子が未成熟な段階で草食動物や害虫、病原菌から実を守るための天然の防衛物質です。香川県農業試験場小豆島オリーブ研究所などの研究資料によれば、品種や収穫時期によるものの、生のグリーンオリーブの固形分中には数パーセントに及ぶオレウロペインが含まれており、一般的な渋柿に含まれるタンニン以上の強い刺激性を持ちます。加熱処理を施してもこの苦味成分は容易には分解されず、そのまま煮たり焼いたりした程度では到底食べられません。
誤って大量に生食した場合は舌の痺れだけでなく、胃粘膜を刺激して胃痛や悪心を引き起こす恐れがあります。だからこそ、人類は紀元前の地中海世界から「アルカリ剤による加水分解」や「塩水による浸出浸透圧」を利用した「オリーブの実アク抜き」の知恵を発展させてきました。美味しく味わうための第一歩は、この強固なオレウロペインを化学的・物理的に除去する工程にあります。