ファンの間で長年議論されてきたのが、「歌詞に登場する駅のホームは具体的にどこなのか」という疑問です。もっとも有力なモデルとされているのが、作詞作曲を手掛けた伊勢正三の故郷である大分県津久見市のJR日豊本線・津久見駅です。
津久見駅の構内には2009年に『なごり雪』の記念碑が建立され、列車の接近メロディにも同曲が採用されています。伊勢正三自身が高校時代までを過ごし、上京する際に旅立った駅であることから、地元や多くのファンにとっての聖地として定着しました。
しかし、伊勢正三本人がテレビ番組や自著のインタビューで語った証言によると、創作の舞台はひとつの駅だけに限定されていません。上京後に過ごした東京の駅(中央線や上野駅など)の情景と、九州・津久見駅で見送った記憶、さらには自分自身の心の中にある架空のプラットホームが重なり合って生まれた心象風景であると説明されています。特定の場所を限定しない抽象度の高さこそが、聴く人それぞれの「自分の思い出の駅」を投影できる普遍性を生み出しています。