本作が数あるラブソングの中でも際立って支持される最大の魔法にかけられて共感理由は、心理学でいう「未完了の体験(ツァイガルニク効果)」と「心理的バウンダリー(境界線)の揺らぎ」を完璧に描き出している点にあります。
人間関係において、完全に納得して別れを迎えるケースは稀です。多くの場合、「あのときもっとこうしていれば」「なぜあの言葉を言えなかったのか」という後悔が残ります。石原慎也氏が紡ぐ言葉は、美化されたおとぎ話ではなく、誰しもが一度は経験したことのある「情けない自分」や「相手に依存してしまっていた弱さ」を誤魔化さずに差し出します。
また、恋愛初期における「相手が世界のすべてに見える心理状態(恋愛高揚感=魔法)」から、次第に現実の生活や将来への不安が入り込んでくる過程は、多くの人が20代前後の青年期から成熟期にかけて通過する普遍的な通過儀礼です。歌詞の中に散りばめられた具体的な生活描写が、リスナー個人の記憶の引き出しを無差別に開けてしまう仕掛けとなっているのです。