この試合の恐ろしさは、狡猾なハンドのわずか4分後に、フットボール史上最高の美技が誕生した点にある。
ハーフウェイライン付近でボールを受けたマラドーナは、鋭いターンで2人を置き去りにすると、そのまま爆発的な加速でイングランドの守備陣を切り裂いた。ピーター・ベズリー、リチャード・ブッチャー、テリー・フェンウィックを次々と交わし、最後はGKシルトンまでもかわして無人のゴールへ流し込んだ。いわゆる「5人抜き(世紀のゴール)」である。悪魔的な狡猾さと、神の領域に達した技術。この4分間のコントラストこそが、マラドーナという稀代の天才の全貌であり、サッカーというスポーツが持つ妖しい魅力を完璧に凝縮していた。