なぜパスカルはこれほどまでに人間の矛盾と弱さに執着したのでしょうか。その背景には、彼自身の規格外なキャリアと過酷な身体的苦痛が存在します。
パスカルは16歳で射影幾何学の基礎となる「パスカルの定理」を発見し、19歳で世界初の実用的な機械式計算機「パスカリーヌ」を開発。さらには水銀柱を用いた実験によって大気圧の存在を実証(圧力の単位「ヘクトパスカル」の語源)するなど、当時のヨーロッパ科学界の頂点に君臨した超天才でした。
合理的な数学と実験科学の極致を極めたパスカルだからこそ、「理性や科学だけでは、人間の根源的な苦しみや死の恐怖を救うことはできない」という冷厳な限界に誰よりも早く突き当たりました。人間はどれほど科学を発展させても、気晴らし(賭け事や名誉欲、無駄な社交)に逃避し、自らの死から目を背け続けます。パスカルは人間の理性を賛美するためではなく、むしろ理性の限界を暴き、人間の悲惨さを白日の下にさらすためにペンを握ったのです。