机上の法規知識と、波風に晒される海の現場とでは、直面するトラブルの質が大きく異なります。海上保安庁の発表資料や海事関係者の証言によると、近年特に多発しているのが、レジャーボート愛好家と港湾管理者の間で生じる「場所を巡る軋轢」です。
都市近郊の漁港周辺では、休日にプレジャーボートの停泊場所を探しあぐねた操縦者が、漁協が管理する専用浮桟橋や荷揚げ用岸壁へ無断で係留索を繋ぎ留める事態が後を絶ちません。現場の漁協関係者からは「早朝の水揚げ作業時に部外者のプレジャーボートが無断係留されていて接岸できず、競り市に魚を卸せなかった」という切実な被害報告が寄せられています。港則法が適用されない小規模な漁港であっても、無許可の係留は民法上の不法行為や威力業務妨害罪に問われる明白な違法行為です。
さらにSNSや知恵袋などのコミュニティでは、「穏やかな入り江だからと錨を下ろして船上バーベキューを楽しんでいたら、急激な引き潮で浅瀬に乗り上げ、船底を破損した」「夜釣りで漂泊していたところ、見張り不十分のプレジャーボートに停泊灯の不点灯を理由に衝突されそうになった」といった恐怖体験が数多く語られています。「エンジンを止めて浮いているだけなら自由」という身勝手な思い込みが、重大な海難事故と隣り合わせである実態を如実に示しています。