当時、世間を最も騒がせていたトピックの一つが「1F作業員は日当10万円以上の超高給を得ている」という言説でした。しかし、作中で赤裸々に描かれた作業員の給料と日当の内訳は、日本の建設業界が長年抱えてきた病理である「重層下請け構造」の冷酷な現実を浮き彫りにしています。
東京電力から元請け(大手ゼネコンなど)へ支払われる危険手当は、一次下請け、二次下請け、三次下請けと階層を下るごとに中間マージンとして差し引かれます。竜田一人氏自身が手にした実際の日当は、危険手当込みで1万数千円〜2万円程度に留まる時期もありました。特殊な大型重機オペレーターや高線量エリアを担当する熟練技術者には相応の手当が上乗せされるものの、末端の一般作業員にとっては「命の危険に見合っているとは言い難い」金額にとどまるケースが散見されたのです。
さらに見逃せないのが被曝管理の真相です。作業員は「ガラスバッジ」や電子線量計(APD)を装着し、日々の被曝線量が1ミリシーベルト、0.1ミリシーベルト単位で中央データに登録されます。累積線量が会社の定めた年間枠(例えば20mSvなど)に近づくと、どれほど優秀な作業員であっても現場に入ることができなくなる「線量枠の頭打ち(通称・アガリ)」を迎えます。つまり、高給を稼ぎ続けようとしても、身体の安全を守る厳格な制度そのものが「一定以上の連続勤務を物理的に遮断する」ブレーキとして機能していたのです。