音楽心理学および表現論の観点から「StaRt」の構造を解き明かすと、大森元貴が仕掛けた見事な「二面性の罠」が浮かび上がってきます。
人間は、あまりに直接的な正論や底抜けの明るさを突きつけられると、無意識のうちに心理的防衛反応(反発や疎外感)を起こすことがあります。これを現代の心理学では過剰な前向きさの押し付けによる弊害(トキシック・ポジティビティ)と呼びます。しかし大森元貴の作風は、初期から一貫して「人間の弱さ・嫉妬・孤独」を赤裸々に肯定することから始まります。
「StaRt」において用いられているのは、メロディの圧倒的な快楽性と、歌詞の持つ鋭利な毒性のギャップによる心理的カタルシスです。超高速のBPMと華やかなブラスサウンドに体を揺らしながら、耳に入ってくるのは「微々たる幸せ」や「塞がるべき傷」という痛みの告白。この強烈な認知的不協和が、リスナーの脳内に鮮烈な感情のスパークを生み出します。哀しみを無理に忘れさせるのではなく、哀しみを抱いたまま全力で走らせる。これこそが、大森元貴というソングライターがメジャーデビューの瞬間から確立していた唯一無二の作家性です。
【プロの結論】この楽曲が深く刺さる人・受け止め方に注意すべき人の判断基準
音楽ジャーナリズムの視点から、この楽曲の真価を最も享受できるリスナー像と、鑑賞にあたっての留意点を整理します。
▼「StaRt」のメッセージが深く響く人:
- 単なる精神論や表面的な応援ソングにうんざりしており、現実の厳しさを共有した上で勇気を得たい人
- 新生活や転職、人間関係の転機において、不安や孤独を抱えながらも前進しなければならない状況にある人
- ミセスのフェーズ2からファンになり、バンドのルーツや大森元貴の思想の原点を知りたい人
▼受け止め方に少し注意が必要な人:
- 歌詞の深層を気にせず、ただ無心で軽快なBGMとして消費したい人(メッセージ性が強烈なため、不用意に聴き込むと内省的な気分に引き込まれる可能性があります)
- 「どんな時も努力は報われる」といった無条件のピュアなポジティビティだけを楽曲に求めている人