第95回授賞式の主役が『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』であったことに異論を挟む者はいない。作品賞、監督賞、主演女優賞をはじめとする主要7部門を獲得した快挙は、選考委員たちの投票行動に大きな変化があった証拠だ。カオスなマルチバースを描いた奇想天外な物語が、なぜこれほどまでに老舗映画人たちの心をとらえたのか。
その中心にいたのが、主演女優賞を獲得したミシェル・ヨーである。アジア系女性として初の主演女優賞受賞という快挙の裏には、彼女自身の40年にわたる苦闘と挑戦があった。香港アクション映画のスターからハリウッドへ進出し、常に「脇役」や「ステレオタイプな東洋人」の枠に押し込められそうになりながらも、本物の演技力を磨き続けてきた。投票直前の選挙キャンペーンで、彼女が語った「若者たち、女性たちに夢を諦めないでほしい」という言葉は、保守的とされてきた会員たちの胸を強く打ったのである。