北朝鮮の人々が自国通貨をこれほどまでに拒絶する背景には、歴史的な痛恨の記憶がある。2009年北朝鮮デノミネーションにおいて、旧紙幣100ウォンが新紙幣1ウォンへと強制的に切り替えられ、交換額に極めて厳しい上限が課された。庶民が血の汗を流して貯め込んだ財産が一夜にして無価値な紙屑へと変貌し、平壌をはじめ各地で絶望した市民の抗議や自殺者が相次いだ悪夢の日である。
この事件を契機に、国民の間に「国家の通貨を持つ者は破滅する」という教訓が骨の髄まで刻み込まれた。金正恩政権がどれほど愛国心を訴えようと、北朝鮮ウォンを信じる者は国内に一人として残っていない。紙幣への不信は単なる経済現象を超え、独裁体制そのものに対する無言の抵抗として地下深くに根を張っている。