「市民の台所」と呼ばれて約300年。近江町市場は午前8時を過ぎると、国内外からの観光客で溢れかえる。蟹の甲羅が並び、威勢のいい掛け声がアーケードに反響する光景は圧巻だが、真の旬を求めるなら足早にメイン通りを抜ける必要がある。市場の奥深く、仲卸直営の小さな角打ちや老舗鮮魚店の一角にこそ、地元民が愛してやまない鮮烈な味がある。
白身のトロと称される「のどぐろ」(アカムツ)は、炭火で皮目を炙った瞬間に上質な脂が弾け、芳ばしい煙を立ち上らせる。塩を一振りしただけのシンプルな造りや握りを口に運べば、とろけるような甘みと日本海の濃厚な旨味が広がる。近年の観光産業の活況により価格が高騰する中でも、妥協のない目利きで最高の個体を仕入れる卸元は健在だ。午前中の早い時間帯に訪れ、氷の上に横たわる朝獲れのキジハタやガスエビを選ぶ贅沢は、この市場でしか味わえない特権と言える。