あの日の夜、異変は前触れもなく訪れた。自宅で過ごしていた磯野貴理子さんは、急激な体調不良に見舞われた。本人は単なる「疲れ」や「気分の悪さ」と受け取ろうとしていたかもしれない。しかし、側にいたパートナーが見逃さなかったのは、言葉のろれつが回らないという決定的な異常行動だった。
脳梗塞の恐怖は、痛みが伴わないケースが多い点にある。心筋梗塞のように胸をかきむしるような激痛があれば誰しも緊急事態だと察知できるが、脳の血管が詰まる際は「なんだか力が入らない」「うまく喋れない」「ふらつく」といった、一見すると疲労と見分けがつきにくい症状で始まることが少なくない。磯野さんのケースで救いとなったのは、「少し様子を見よう」と先送りにせず、即座に救急車を呼んだ周囲の判断力であった。