カレイをはじめとする白身魚の煮付けで最も多い失敗は、「味が染みないから」と弱火で長時間コトコト煮込んでしまうことです。魚の筋肉タンパク質(ミオシン・アクチン)は60℃〜70℃を超えると急激に収縮し、内部の水分を外へ押し出してしまいます。長時間加熱すればするほど、身はパサパサに硬くなり、ゼラチン質が溶け出して身崩れを引き起こす構造的な理由がここにあります。
プロの現場における基本原則は「強めの火加減で短時間(10分以内)で仕上げる」ことです。煮汁をあらかじめ強火で煮立たせてから魚を投入すると、表面のタンパク質が一瞬で熱凝固してコーティング膜が作られます。これにより、旨味エキスと水分が内部に閉じ込められ、ふっくらとしたジューシーな食感がキープされます。味を染み込ませるのは長時間の煮込みではなく、落とし蓋による煮汁の対流と、火を止めた後の「冷める過程で生じる浸透圧」を利用するのが料理人の常識です。