樹木希林の名を世界的女優へと押し上げたのは、是枝裕和監督とのタッグだろう。映画『歩いても 歩いても』で見せた、一見穏やかでありながら底知れぬ怖さを秘めた母親役。食卓での何気ない会話、包丁を握る手つき、息子の前で見せるわずかな表情の陰り。そのすべてが計算し尽くされたリアリティに満ちていた。
そして、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『万引き家族』。入れ歯を外して老婆を演じきったあの姿勢には、映画関係者の誰もが息をのんだ。自身の見た目やプライドを一切捨て去り、役に没頭する。徹底した役作りと妥協を許さない姿勢は、日本アカデミー賞をはじめとする数々の賞を受賞したことでも証明されている。
是枝監督が描く上質なヒューマンドラマにおいて、彼女の存在は作品の骨格そのものだった。細部を疎かにしない情熱が、スクリーンに圧倒的な真実味を与えていたのだ。