犬が舌を出して激しく呼吸する行為は、医学用語でパンティング(Panting)と呼ばれます。汗腺が肉球などごく一部にしか存在しない犬にとって、パンティングは口腔内の唾液を蒸発させ、気化熱によって体温を下げる極めて重要な生理的体温調節機能です。運動直後や興奮時、室温が高い環境下において、一時的に息が荒くなること自体は正常な生体反応といえます。
しかし、問題となるのは「体温調節を必要としないシチュエーション」で発生する異常な呼吸です。獣医師が臨床現場で警鐘を鳴らすのは、犬の息が荒くハアハアする原因が生理的な放熱ではなく、低酸素血症や重度の疼痛、代謝異常によって引き起こされているケースです。室温が適切に保たれた部屋で安静にしているにもかかわらず、15分から20分以上経過しても呼吸が落ち着かない場合、体内で深刻な異変が進行しているサインと判断しなければなりません。
見極めの第一歩は、「呼吸の質の変化」を観察することです。健康なパンティングであれば、舌の色は健康的なピンク色を保ち、胸の上下動もリズミカルで苦痛の表情は見られません。一方で、病的な呼吸困難に陥っている犬は、目を見開き、肋骨を大きく膨らませて必死に空気を吸い込もうとします。この差異を単なる暑さや興奮と混同することが、治療の遅れを生む最大の原因となっています。