テレビ関係者や民放キー局の考査部門への取材から浮かび上がったのは、ネット上で囁かれる「永久追放説」の誤解と、現代のテレビメディアが抱える構造的なジレンマです。『裸の大将放浪記』が地上波で再放送されない背景には、大きく分けて3つの明確な要因が存在します。
最大の障壁は、昭和後期の放送コードと現代のコンプライアンス基準の乖離です。劇中では、主人公に対する周囲の心無いからかいや、現在では放送禁止用語に指定されている差別的な呼称、精神疾患・知的障害に対するステレオタイプな描写が頻繁に登場します。1980年代当時は「無垢な旅人と偏見に満ちた俗世」を対比させるための劇的演出として許容されていましたが、BPO(放送倫理・番組向上機構)のガイドラインが厳格化した現在、オリジナルのまま昼帯やゴールデン帯で流すことは倫理上、極めて困難と判断されています。
また、権利関係と二次使用許諾の複雑さも拍車をかけています。本作はフジテレビ・関西テレビ系で放送され、制作には東宝が深く関与していました。主演の芦屋雁之助をはじめ、各話ごとに登場した昭和を代表する大物ゲスト俳優の多くがすでに鬼籍に入っており、相続人を含めた肖像権・実演権の許諾手続きには膨大なコストと時間がかかります。ダ・カーポが歌う名主題歌の原盤権や劇中BGMの著作権処理も、地上波再放送のハードルを押し上げる一因です。
ただし、「作品自体が闇に葬られた」という言説は明確なデマです。有料CSチャンネル(日本映画専門チャンネルやホームドラマチャンネル等)では、作品冒頭に「当時の時代背景や制作者の意図を尊重し、オリジナルのまま放送します」という視聴者への断り書きテロップを明示したうえで、現在も定期的にリマスター放送が実施されています。