『炎のゴブレット』のミステリーとしての完成度を支えているのが、新任教師アラスター・ムーディ(通称マッド・アイ)に成りすましていた死喰い人、バーテミウス・クラウチ・ジュニア(演:デイヴィッド・テナント)の存在です。映画を見返すと、全編にわたって幾重もの伏線が緻密に張り巡らされていたことに気づかされます。
最も象徴的な視覚的伏線は、デイヴィッド・テナント演じるバーティ・クラウチ・Jrが見せる「唇を舐め回すような蛇のような舌の動き」です。この癖は、ブレンダン・グリーソン演じる偽ムーディの姿の時にも完全に再現されており、映画冒頭の裁判シーンでの挙動とリンクしています。森の中で父シニアと対面した際、偽ムーディが無意識にこの舌の仕草を見せた瞬間、シニアは目の前の男が実の息子であることに気づき、愕然と息を呑みます。その直後にシニアが森で不審死を遂げる展開は、身元発覚を恐れた息子による口封じだったわけです。
また、劇中で偽ムーディが常に持ち歩き、頻繁に口に含んでいたスキットル(携帯用酒瓶)の中身は、酒ではなく姿を変え続けるための「ポリジュース薬」でした。スネイプ教授が薬品庫から「えらの草(映画ではアフリカ樹蛇の皮やイタチハギ)」が盗まれたとハリーを疑うシーンがありますが、真犯人は夜な夜な薬品庫に忍び込んでいた偽ムーディ自身でした。
さらに恐るべきは、ハリーを優勝へと導くための心理誘導の巧妙さです。
- 第一の課題(ドラゴン):ハリーの飛行適性を見抜き、箒を召喚するよう入れ知恵をした。
- 第二の課題(水中):薬草学が得意なネビルにわざと水中植物の書物を渡し、ハリーへ助言するよう仕向けた(原作ではドビーに聞かせるため大声で独り言を言った)。
- 第三の課題(迷路):強力な魔法で外から迷路の壁を透視し、他の代表選手(フラーやビクトール・クラム)を呪文で無力化。ハリーが最も早く優勝杯へ到達できるよう障害を排除し続けた。
一見するとハリーの良き理解者であり、豪快で頼もしい歴戦の闇祓いとして振る舞いながら、その実態はヴォルデモートへの狂信的な忠誠心に燃える暗殺者でした。この完璧な二面性こそが、視聴者を最後まで欺き通した最大のサスペンス要素でした。