「ベランダのパセリにアゲハの幼虫がいたから、庭のレモンの葉をあげたら一口も食べずに弱ってしまった」——こうした失敗は、飼育初心者が最も陥りやすい落とし穴です。アゲハチョウの幼虫は、なんでも食べる雑食性の毛虫とは根本的に異なり、種類ごとに食べられる植物(食草・寄主植物)が生物学的に厳格に限定されています。
市街地で最も身近なナミアゲハ(並揚羽)やクロアゲハの幼虫は、ミカンやレモン、ユズ、サンショウといった柑橘類の葉(ミカン科)しか受け付けません。一方、姿形が酷似しているキアゲハの幼虫はパセリ、ニンジン、セリ、フェンネルといったセリ科植物のみを専食します。両者は体内の解毒酵素や味覚受容体が全く異なるため、ナミアゲハにパセリを与えても、キアゲハに柑橘類の葉を与えても、異物として拒絶して餓死に至るのです。
さらに見落とされがちなのが、園芸店で購入した柑橘の苗木やスーパーのパセリに含まれる「残留農薬」の脅威です。昆虫写真家のNao氏(蝶と昆虫のwebメディア等で発信)をはじめとする観察現場のデータでも、ホームセンターで購入したばかりの苗木を与えた途端、幼虫が激しくのたうち回って緑色の胃液を吐き、全滅する事例が多数報告されています。アゲハチョウの幼虫のエサを調達する際は、無農薬栽培であることが確証されている葉を選ぶか、長期間屋外で雨風に晒して新芽を出させた安全な枝葉を厳選しなければなりません。