「冷凍魚はしっかり解凍してから煮付けるもの」という固定観念は、今すぐ捨てるべきだ。水産加工の技術研究機関や現場の料理人が口を揃えて指摘するのは、緩慢解凍によるドリップ(旨味流出液)の弊害である。サバを室温や冷蔵庫で中途半端に解凍すると、氷結晶が溶ける際に筋繊維の細胞膜を破壊し、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)を含んだ貴重な脂と水分が外へ逃げ出してしまう。これが、煮上がりがパサつく最大の力学的要因だ。
さらに見逃せないのが、解凍時に表面へ滲み出るトリメチルアミンなどの揮発性塩基窒素成分、いわゆる「魚臭さ」の元凶である。解凍状態で放置されたサバは酸化が進み、不快な臭みが身全体へと逆戻りしてしまう。これに対し、冷凍のまま調理を敢行すると、加熱初期に沸騰した煮汁の蒸気と対流によって魚の表面タンパク質が一瞬で熱変性(凝固)を起こす。これにより内部の旨味を閉じ込める強固なシェル(保護膜)が形成され、ふっくらとしたジューシーな食感が保たれる。
ただし、完全な無処理でよいわけではない。プロが実践する臭み取り下処理の極意は、冷凍サバの切り身を熱湯にサッと2〜3秒くぐらせる、あるいはポットの熱湯を皮目と身に回しかけて冷水に落とす「霜降り」の工程にある。霜降りを行うことで、表面の酸化脂質と細かな汚れのみが洗い流され、煮汁が濁ることなく澄んだ味わいへと昇華する。このわずか30秒の作業が、家庭の味を劇的に変える分岐点となる。