現在でこそ全国から称賛を集める花見山ですが、その成り立ちには一軒の農家の汗と情熱が刻まれています。福島花見山の桃源郷の歴史と秋山庄太郎氏との邂逅を知ることで、目の前に広がる景色の解像度は劇的に深まります。
大正時代末期、この地の花木農家であった故・阿部伊勢次郎氏と長男の一郎氏が、養蚕の衰退に伴い桑畑から花木の栽培へと舵を切ったのが発端でした。「道行く人々に花を見て喜んでもらいたい」という純粋な願いから、荒れ地を開墾して桜、レンギョウ、ツバキなどを一本一本手作業で植栽。1959年(昭和34年)、「個人の山を市民の憩いの場に」と阿部家の善意によって無料一般開放されました。
この名もなき美しい山を全国区へと押し上げたのが、昭和を代表する写真家・秋山庄太郎氏です。1979年に初めてこの地を訪れた秋山氏は、計算された庭園美とは対極にある、農家の手によって自然の地形に沿って育まれた生命力あふれる花の競演に心を奪われ、「福島に桃源郷あり」と自著や展覧会で繰り返し絶賛しました。秋山氏は生涯にわたり毎春欠かさず花見山を訪れ、その写真がきっかけとなって全国からカメラマンや旅人が押し寄せるようになったのです。
現在では、春限定でボランティアガイドによる案内デスクが開設され、阿部家の歴史や草木の特徴を解説してくれる花見山公園の現地観光ツアーと写真スポットの案内も充実しています。秋山氏が定点撮影を行っていた「花の谷」や、吾妻小富士の「雪うさぎ」と山肌の花を同一フレームに収められる山頂ポイントは、今なお屈指の人気を誇るフォトスポットです。