『ビリー・ジーン』を語る上で絶対に外せない歴史的転換点が、1983年3月25日に収録され、5月16日に全米放映されたテレビ特番『モータウン25:イエスタデイ、トゥデイ、フォーエバー(Motown 25: Yesterday, Today, Forever)』でのパフォーマンスです。
当時、ジャクソンズとしての出演要請に対し、マイケルは「ソロとして新曲『ビリー・ジーン』を歌わせてもらえるなら」という条件をつけて出演を承諾しました。暗転したステージに黒のフェドラ帽、黒のスパンコール・ジャケット、そして右手に光るラインストーンの手袋を着けて現れたマイケルは、リズムに合わせて右足のつま先を踏み鳴らし、帽子を掲げました。
そして間奏部分、前進しているように見えながら滑らかに後退していく奇跡のようなステップ、モータウン25 ムーンウォーク 初披露の瞬間が訪れます。客席にいたハリウッドスターやモータウンのレジェンド歌手たちが総立ちとなり、悲鳴に似た歓声がホールを揺らしました。翌日、伝説のタップダンサーであるフレッド・アステアがマイケルに直電をかけ、「昨夜のパフォーマンスを見たよ。君は怒っているみたいに激しく動く、とてつもないダンサーだ」と手放しで絶賛したことは有名な逸話です。
この一夜を境に、音楽を「聴くもの」から「視覚で体験するもの」へと決定的に塗り替えたマイケル。当時の熱狂をリアルタイムで体験した世代のみならず、現代のSNSや動画プラットフォーム上でも「人間業とは思えない」「重力を無視している」と驚嘆の声が絶えません。歌詞に込められた張り詰めた緊張感が、極限まで研ぎ澄まされたダンスパフォーマンスと融合したことで、本作は神話の領域へと押し上げられたのです。