ランブルの象徴であるファサードの看板には、創業時から明確に「珈琲だけの店」と刻まれています。トーストやサンドイッチはもちろん、ケーキすら一切置かないこの営業スタイルは、一般的な喫茶店ビジネスの常識からすれば極めて異端です。この方針を貫く背景には、創業者・関口一郎氏の徹底した機能主義と珈琲への畏敬の念が存在します。
早稲田大学理工学部で学んだエンジニアという異色の経歴を持つ関口氏は、珈琲を情緒や雰囲気ではなく、極めて精密な物理・化学現象として捉えていました。生豆の選別から乾燥、熱の伝導効率、粉の粒度分布、湯の温度降下曲線に至るまでを論理的に解明した関口氏にとって、「食品の油分や調味料の匂いが店内に充満すること」は、珈琲の揮発性アロマを損なう致命的なノイズに他なりませんでした。
かつて関口氏は自著やインタビューの中で次のように述懐しています。「菓子で口の中をごまかして飲む珈琲など本物ではない。一客の珈琲そのものが、完璧なデザートであり、極上の食後酒でなければならない」。甘味や軽食に依存せず、液体そのものの質感、酸味の輪郭、喉越しの甘みだけで客を心底納得させるという、退路を断った職人の覚悟がこの看板には込められています。