臨床現場において、爪が反る原因は大きく「全身性疾患」「内分泌系の失調」「局所的な外的負荷」の3つに分類されます。それぞれの発生メカニズムと現れる特徴には明確な違いが存在します。
第一の要因は、圧倒的多数を占める鉄欠乏性貧血です。血液検査の数値において、一般的なヘモグロビン値(Hb)が正常範囲内であっても、体内の貯蔵鉄を示す「フェリチン値」が著しく低下している「潜在性鉄欠乏症」の段階からスプーン爪は始まります。指先は心臓から最も遠い末端組織であるため、体内の鉄不足の影響を真っ先に受け、爪の厚みが通常の半分近くまで薄質化してしまいます。
第二の要因として警戒すべきは、甲状腺の病気と爪の異常の関連性です。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では新陳代謝が異常に亢進し、爪の伸びが早くなる一方で組織が未熟なまま押し出され、爪甲剥離症を併発しながら反り返ることがあります。逆に甲状腺機能低下症(橋本病など)では、全身の代謝低下により爪が極度に乾燥して弾力を失い、中央から陥没していく現象が報告されています。
第三の要因は、手足の使いすぎや摩擦による局所的ストレスです。特に足の親指の爪が反る原因の多くは、サイズの合わない靴による圧迫や、歩行時に指先が浮いてしまう「浮き指」、さらには深爪によって爪先の皮膚が盛り上がり、前方からの壁となって爪を上へと押し上げるバイオメカニクス的要因が絡み合っています。職業柄、水仕事が多い人や有機溶剤を扱う技術職でも、ケラチンの脱水と脱脂が進んで爪が反る現象が頻発します。
なお、幼少期に見られる子どもの爪が反る対処法については、成人の病的要因とは切り離して考える必要があります。乳幼児の爪は元々ペーパーのように薄く柔軟であり、ハイハイやつかまり立ちで指先に強い床反力がかかるため、自然と反り返るケースが多々あります。成長に伴い骨格と歩行が安定し、爪に適度な厚みが出てくれば、特別な治療を行わなくても学童期までに自然治癒することが大半です。ただし、顔色の蒼白さや極端な偏食、活気の低下が伴う場合は小児科での貧血スクリーニングが推奨されます。