認知機能の低下により論理的な対話が困難になった高齢者に対する接遇では、言葉の意味そのものよりも「感情の共有」が決定的な意味を持ちます。ここで鍵となるのが、介護現場での傾聴と共感のスキルです。
現場の実践において広く支持されているのが、フランス発祥のケア技法「ユマニチュード」や、感情に寄り添う「バリデーション療法」の考え方を取り入れた認知症高齢者への接遇コミュニケーションです。利用者が「家に帰りたい」「財布を盗まれた」と訴えた際、事実と異なるからといって「ここは施設ですよ」「誰も盗んでいません」と否定(現実否定)することは接遇上厳禁です。
「家に帰らなければいけない理由があるのですね」「財布が見当たらないと本当に不安ですよね」と、まず相手の感情そのものを受け止める(共感する)ことから始めます。感情が受容されたと感じた瞬間、利用者の警戒心は解かれ、穏やかな表情を取り戻します。利用者の訴えの背景にある孤独感や不安を汲み取ることこそ、高次元の介護接遇です。