しかし、幸福な新婚生活は長くは続きませんでした。婚姻期間はわずか約2年。1976年には協議離婚が成立し、二人は別々の道を歩むことになります。なぜ、苦境を分かち合ったはずの夫婦がこれほど短期間で破綻に至ったのか。その深層には、想像を絶するスピードで進行した「時代の寵児化」と家庭環境の崩壊がありました。
当時、アルバム『氷の世界』はオリコン史上初のミリオンセラーを記録し、LPチャートで日本記録となる通算35週1位を獲得。井上陽水を取り巻く環境は一夜にして激変しました。連日のレコーディング、全国ツアー、メディアからの過熱取材により、陽水は一年の大半を自宅外で過ごす生活を余儀なくされます。東京と九州を行き来する生活の中で、二人の間に生じた物理的・時間的な乖離は、新婚夫婦の絆を急速に蝕んでいきました。
さらに大きかったのが、精神的な孤独とプレッシャーの共有不全です。急激な成功によって巨万の富と名声を得た陽水でしたが、本人の内面は常に虚無感や音楽的葛藤に苛まれていました。熊本で穏やかな日常を送ることを望んでいた前妻にとって、社会現象にまで拡大した「井上陽水ブーム」の狂騒と、夜昼逆転するクリエイターの私生活は、到底受け止めきれるキャパシティを超えていたのです。双方が抱く将来設計のズレが修復不可能なレベルに達したことが、決定的な離婚理由となりました。