本作のモチーフとなったのは、2010年7月30日、大阪市西区靭本町のマンションで当時3歳の女児と1歳9ヶ月の男児が腐敗した状態で発見された事件です。報道各社の取材データおよび当時の刑事裁判(大阪地裁・大阪高裁)の公判記録によると、23歳の母親は約50日間にわたり子どもたちを部屋に閉じ込め、知人男性との外泊やホストクラブ通いを繰り返した末に2人を餓死させました。
映画『子宮に沈める』は事実をベースにしながらも、劇映画として重要な再構築を行っています。実際の事件と映画の設定の違いを客観的に比較・検証します。
実話における母親は、公判での証言によると、子どもを放置している期間中もSNSに「子育てが楽しい」といった虚飾の投稿を続け、外泊先で知人らと享楽的な時間を過ごしていました。そのため、当時のワイドショーや週刊誌報道では「稀代の悪女」「鬼母」と激しくバッシングされました。
しかし緒方監督は、映画化にあたってそれらの派手なスキャンダル要素を削ぎ落としました。夫の不倫と突然の離婚通告、一人きりでの就労、頼れる親族の不在、そして家事と育児が両輪で破綻していく過程を丁寧に描写しています。実話のグロテスクな表面をなぞるのではなく、「なぜ、愛していたはずの我が子を死に至らしめるに至ったのか」という不可逆な心理プロセスに焦点を当てた点が、本作の最大の作家性です。