「海員会館」と聞くと、船員手帳を持つ海の男たちだけの専用施設という印象を抱かれがちですが、実際には東京海員会館は一般利用が可能な極めてオープンな宿泊研修施設でした。むしろ、平成後半には一般の宿泊客の比率が大きく上回っていた時期もあります。
客室は、余計な装飾を排した実直なビジネスホテル仕様。しかし、シングルルームでも近隣の大手ビジネスカテゴリーより一回り広く、天井が高い堅牢な造りが特徴でした。当時の宿泊者の口コミや手記を振り返ると、「決して最新のホテルではないが、清掃が行き届いており、実家に帰ってきたような安心感があった」「湾岸エリアなのに驚くほど静かで熟眠できた」という声が多数残されています。特に有明の東京ビッグサイトで定期開催されるコミックマーケットや同人誌即売会、各種国際見本市が開催される週末には、近隣ホテルの価格高騰を尻目に、良心的な定額料金で泊まれる伝説の穴場宿として予約争奪戦が繰り広げられたものです。
そして、宿泊者以上に近隣の就業者から熱狂的な支持を集めていたのが、館内に併設されていた東京海員会館のレストランです。港湾関係者や大型トラックドライバー、近隣のオフィスワーカーたちの胃袋を支えたそのメニューは、まさに「飾らない本格派」。大皿に盛られた日替わりの刺身定食、肉厚な豚生姜焼き、具沢山の豚汁定食が手頃なワンコインから千円前後の良心価格で提供され、ランチタイムには連日満席の賑わいを見せていました。海運の福利厚生施設ならではの、しっかりとした栄養設計と妥協のないボリューム感は、晴海の胃袋として愛され続けたレガシーのひとつです。