近年行われた文化庁による悉皆調査は、聖福院の文化財的価値を根底から見直す契機となった。長年の湿気と風雨に晒されながらも奇跡的に原形をとどめていた仏画群や密教法具の数々が、重要文化財指定に向けた評価段階に入ったのだ。調査団の専門家を驚かせたのは、鎌倉期に遡る曼荼羅の顔料に、極めて高純度の天然鉱石が惜しみなく使われていた点である。
特に客殿の奥に秘匿されていた両界曼荼羅は、色彩の褪色が極めて少なく、平安末期の様式美を完璧に保存している。卓越した筆致で描かれた尊像の衣紋、金箔を細密に截断して貼り付けた截金技法。この密教美術の粋を集めた傑作は、地方豪族の手厚い庇護と、中央の一流仏師の手が直接入っていたことを証明している。隔離された山奥でありながら、最先端の美意識が注ぎ込まれていたという事実は、中世宗教史のミッシングリンクを埋める重大な発見だ。