雅裕が役者として活動を始めた1980年代末から1990年代初頭、兄のヒロトはすでにカリスマ的人気を誇っていました。「甲本ヒロトの弟」と名乗りさえすれば、オーディションやメディア露出で有利に働いた可能性は否定できません。しかし、雅裕はその選択肢を頑なに拒否しました。
当時のインタビューや関係者の証言によると、雅裕の胸中にあったのは「兄の看板に泥を塗りたくない」という想いと同時に、「役者・甲本雅裕として自分の足で立ちたい」という強固な自立心でした。下積み時代は風呂なしのアパートに暮らし、劇団の裏方やアルバイトを掛け持ちしながら、オーディションを愚直に受け続ける日々を送っています。
兄のヒロト側も、弟の覚悟とプライドを誰よりも理解していました。あえてメディアで弟の存在を吹聴することは一切せず、遠くから静かに見守る姿勢を貫きました。この距離感こそが、二人が互いを一人の独立したプロとして尊重し合っていた決定的な証拠です。