倉吉ウイスキーに対して「ひどい」「怪しい」という厳しい評価が定着したきっかけは、2015年から2016年頃にかけて発生した原酒表示をめぐる炎上騒動に端を発します。当時、ウイスキーファンの間で何が起きていたのか、その経緯を整理すると構造的な問題が浮かび上がってきます。
最大の火種となったのは、松井酒造が鳥取県倉吉市に「倉吉蒸溜所」を新設して間もない時期であるにもかかわらず、「倉吉 8年」「倉吉 12年」「倉吉 18年」といった長期熟成表記のウイスキーを突如市場へ投入した点でした。ウイスキー製造の常識として、蒸留器を稼働させてから12年熟成の原酒を得るには最低でも12年の歳月が必要です。稼働直後の蒸留所から10年を超える原酒が出荷される事態に対し、国内外のウイスキー愛好家や専門家から「自社蒸留ではない海外産原酒を使っているのではないか」という疑問と怒りの声が一気に噴出しました。
当時の報道や業界関係者の指摘によると、実際にはスコットランドなどから輸入したスコッチモルト原酒を日本国内でブレンドし、大山(だいせん)水系の伏流水で加水調整してボトリングした製品でした。当時の日本の酒税法上、海外原酒をブレンドして国内で瓶詰めしても「ウイスキー」として販売すること自体に違法性はありませんでした。しかし、ラベルに日本語の筆文字を用い、あたかも「倉吉の地で長年育まれた伝統のジャパニーズウイスキー」であるかのように誤認させるマーケティング手法が、消費者の不誠実感を決定づける要因となったのです。
ネット掲示板やSNSでは「原酒偽装ではないか」「消費者を欺いている」と激しいバッシングが巻き起こり、このときの感情的な反発が「倉吉ウイスキー=ひどい・まずい」というパブリックイメージとして固定化されていくことになりました。