坂口杏里の生い立ちを振り返る上で欠かせないのが、芸能界におけるいわゆる「二世タレント」としての特異な境遇と、母娘間の深い心理的結着です。母・良子さんは自身が離婚や多額の借金で苦労した分、娘には何不自由ない生活を送らせたいと願い、時に過保護とも受け取れるほどの深い愛情を注ぎました。
バラエティ番組での共演時、天然キャラクターとしてブレイクする娘の横で、母は常にハラハラしながらも優しくフォローを入れていました。当時のテレビ関係者は「スタジオの裏でも良子さんは杏里さんから片時も目を離さず、衣装からトークの間合いまで甲斐甲斐しく世話を焼いていた」と述懐しています。そこには愛情深い母親の姿と同時に、互いが互いの存在に過度に依存し合う「共依存関係」の萌芽が存在していました。
心理学でいう「心理的バウンダリー(自他の境界線)」が曖昧なまま成人を迎えた杏里さんにとって、母は単なる親ではなく、自己のアイデンティティそのものを担保してくれる唯一無二の防波堤でした。その絶対的な安全基地が前触れもなく消滅した瞬間、彼女の自我は深い精神的空白と孤立の底へ突き落とされることになったのです。