オーブントースターの扉越しにプラバンが縮んでいく瞬間、描いたはずの色が予想外の変色を起こす現象には、明確な物理的・化学的メカニズムが存在します。市販のプラバン素材の多くは二軸延伸ポリスチレン(OPS)と呼ばれる樹脂で作られており、製造時に引き伸ばされた分子構造が、約130℃前後の熱によって元のコンパクトな状態へ戻ろうとします。このとき、板の面積は元の約4分の1から5分の1程度に急激に縮小します。
ここで着目すべきは、プラバンマッキー焼く前と後の劇的な濃度変化です。油性ペンの代表格であるマッキーのインクは、有機溶剤に染料を溶かした「油性染料インク」です。焼成前は半透明で鮮やかに見えていた淡いピンクや水色であっても、樹脂が縮むことでインクの分子密度が約4〜6倍に一気に濃縮されます。その結果、中間色は黒ずんで濁り、黒い主線は光を反射しないほど重たい漆黒へと変貌してしまうのです。
さらに制作現場で頭を抱えさせるのが、プラバン油性ペンにじむ理由です。油性染料はプラスチックの平滑面に乗っているだけの状態に近く、トースター内部の熱風や急激な軟化によってインク層がわずかに流動します。くわえて、作品の強度や光沢を出すためにUVレジンやLEDレジンを直接塗布すると、未硬化レジンに含まれるアクリル系モノマーや光重合開始剤が油性染料を溶かし出し、毛細管現象のように輪郭がぼやけて周囲に広がってしまいます。
一方、「それなら水性サインペンを使えばいいのでは」と試して失敗するケースも散見されます。プラバン水性ペン使えない理由は極めて明快で、プラバンのツルツルとした非多孔質表面に対して水性染料インクは表面張力で弾かれてしまい、均一な膜を形成できません。仮に無理やり描いて乾燥させたとしても、樹脂に全く定着しないため、加熱時の気流で粉末状になって吹き飛ぶか、収縮のシワに追従できず粉々にひび割れて剥離してしまいます。