「サケ」と呼ぶべきか、それとも「シャケ」と呼ぶべきか。日常会話でしばしば話題に上るこの疑問だが、言語学的にはどちらも間違いではない。結論から言えば、標準語および生物学上の正式名称は「サケ」であり、江戸言葉の音韻変化から生まれた方言的な発音が「シャケ」である。
江戸の町人文化においては、「サ行」の音が「シャ行」へ滑らかに変化する傾向が強かった。「ひがし」を「しがし」と言うような江戸っ子のべらんめえ口調の文脈で、「サケ」が「シャケ」へと変化し、それが下町の食卓を中心に定着したとされる。さらに現代では、生魚や水揚げされた状態を「サケ」、調理された料理やおにぎりの具材を「シャケ」と呼び分ける風習も一部で見られる。言葉が時代とともに生き物のように変化してきた足跡が、ここにもくっきりと残っている。