井戸水が濁った、珍しい形の雲を見た、深海魚が浅瀬に打ち上げられた。古くから語り継がれるこうした「宏観異常現象」は、大災害の前触れとして人々の関心を集め続けている。だが、現代の地震学における評価は極めて冷徹だ。数千件に及ぶ過去の報告を統計的に精査しても、地震発生との間に明確な因果関係や再現性は認められていない。
人間の脳は、大惨事に見舞われた後に「そういえば数日前に奇妙なことがあった」と後付けで結びつけがちだ。心理学でいう確証バイアスである。もちろん、岩盤の圧縮に伴う電磁気的な変化や地下水圧の微変動を捉えようとする研究自体は今も続けられている。しかし、確実な予知の決め手には遠いのが現状だ。
現代の科学が真の前兆として注目しているのは、人間の肉眼や感覚では決して捉えられない、地下深くの物理的な地殻変動である。