尾畠氏の活動を語るうえで、誰もが抱く疑問がある。なぜ一切の報酬や寄付金を受け取らないのか。国や自治体からの栄誉ある賞を固辞し、現場での食費やガソリン代もすべて自給自足。その原資は、毎月支給される自身の国民年金のみだ。この頑ななまでの姿勢の根底には、災害救援・社会福祉に対する独特かつ強固な信念が存在する。
「自分にかかったお金は自分で払う。人に迷惑をかけちゃいかん」。かつて鮮魚店を営み、65歳で店を畳んだ際に「これからは社会に恩返しをする」と心に決めた。彼にとってボランティアとは、誰かに感謝されるための行動ではなく「己の生き方を全うするための自己満足」だという。見返りを一切求めないからこそ、現場での判断に利害やブレが生じない。メディアが報じる美談の裏には、己に課した厳格な自律と、純粋すぎるほどの奉仕の哲学が隠されている。