焙煎室の奥で鈍い光を放つ大型ロースター。ドラムが回転する規則正しい金属音とともに、パチパチと豆が爆ぜるハゼ音が響く。自家焙煎珈琲の真骨頂は、その日の気温、湿度、生豆の含水率を指先と嗅覚で見極めるバリスタ・焙煎士の研ぎ澄まされた感覚にある。わずか数秒の煎り止めの判断が、甘みの輪郭を際立たせるか、あるいは雑味を生むかの境界線を分ける。
近年のスペシャリティコーヒー産業では浅煎りの華やかな酸味がもてはやされる傾向にあるが、ここでは豆本来の個性を活かしつつ、芯まで火を通す中深煎りから深煎りの表現にも一切の妥協がない。産地ごとのテロワールを尊重しながらも、決して奇をてらわない。冷めていく過程でシルクのような滑らかさと透明感のある甘みが広がる焙煎プロファイルには、職人の確固たる哲学が宿っている。