ものもらいを発症した際、最も多く寄せられる懸念の一つが「周囲の人や家族にうつしてしまうのではないか」という不安です。結論から述べると、ものもらいは他人にうつる病気ではありません。
学校保健安全法で出席停止に指定される「流行性角結膜炎(はやり目)」や「咽頭結膜熱(プール熱)」はアデノウイルスによる強力な感染症ですが、ものもらいの原因となるブドウ球菌は、人間の皮膚や毛髪、鼻腔内などに普段から存在する「常在菌」です。体調不良や疲労、寝不足などによって自身の局所免疫力が低下した際に発症する日和見感染であるため、同じタオルを共有したり同じプールに入ったりしても、他者へ感染が広がるリスクはありません。
それにもかかわらず「うつる」という誤解が根強く残っている背景には、日本各地に伝わる独特の呼び名や俗信が関係しています。「ものもらい(主に東日本)」という名称自体、「他者から施し(物を貰う)を受けると治る」という民俗信仰に由来しています。西日本を中心に広く使われる「めばちこ(近畿地方)」や「めいぼ・めぼ(東海・北陸・中四国)」、九州の一部で見られる「お姫様」など、方言は数十種類にも及びます。かつて原因が解明されていなかった時代に作られた言い伝えが、現代においても「人との接触で何かが移動する」というイメージの混同を生む要因となっています。