近年の製パン業は、オートメーション化と効率化の波に洗われている。セントラルキッチンで大量生産された冷凍生地を店舗で焼くだけのチェーン店が増えるなか、中屋パンの工房には今も職人たちの呼吸と手の温もりが満ちている。毎朝夜明け前から粉を計り、捏ね上げ、発酵の膨らみ具合を指先の感触だけで確かめる。彼らにとってパン作りは作業ではなく、生き物との対話だ。
「機械を入れれば、もっと楽にたくさん作れるのは分かっています。でもね、手のひらで触っていないと分からない微妙な変化があるんです」。そう語る職人の指先には、幾重にもタコができている。効率を追い求めれば、あの繊細な口溶けは確実に失われてしまう。時代遅れと笑われようとも、自分たちの信じた手触りを守り抜く。その不器用な誠実さこそが、激戦区名古屋で看板を守り続けてこられた最大の武器に他ならない。