順風満帆に見えた急成長に暗雲が垂れ込めたのが、2018年1月26日に発覚したコインチェックNEM流出事件です。外部からの不正アクセスにより、顧客から預かっていた約580億円相当の暗号資産NEM(5億2,300万XEM)が流出しました。
原因は、安全性の高い「コールドウォレット(オフライン保管)」ではなく、インターネットに常時接続された「ホットウォレット」で管理されていたこと、そして複数鍵による署名が必要な「マルチシグ(Multi-sig)」化が完了していなかったことにありました。ユーザー体験の向上と取扱銘柄の急拡大を最優先した結果、セキュリティ体制の構築が事業規模の拡大スピードに追いつかないという、スタートアップ特有の致命的な構造的脆弱性が露呈した瞬間でした。
事件当夜、スーツ姿で記者会見場に現れた和田氏と大塚氏の姿は、連日メディアで報じられました。殺到する厳しい質問に対し、表情を強張らせながらも事実関係を淡々と説明する姿は世間に大きな衝撃を与えました。
その後、コインチェックは2018年3月、約26万人を対象に総額約463億円にのぼる日本円での補償を自社資金のみで完遂。破産申請を回避し、全額返金を実行した事実は金融界でも極めて異例の対応として記録されています。しかし、金融庁からの業務改善命令と金融商品取引業者としての再登録要件を満たすため、経営体制の抜本的刷新が不可欠となり、和田氏はCEOの座を退く決断を下しました。