転機が訪れたのは、プロ4年目となる2022年シーズンでした。当時の中日を率いていた立浪和義監督による「投手転向」の決断は、球界およびファンに巨大な衝撃を与えました。大谷翔平のような「投打同時進行の二刀流」ではなく、ドラフト1位の大型野手として育ててきた選手を「完全な投手」として舵を切らせる試みは、極めて異例の措置だったからです。
発端となったのは、2022年5月の甲子園球場における阪神タイガース戦でした。大差をつけられた敗戦濃厚の試合展開の中、ベンチは野手である根尾をマウンドへ送りました。一見すると敗戦処理やファンサービスのように映ったこの起用が、事態を一変させます。根尾が投じたストレートは軽々と150km/hを超え、鋭い縦のスライダーで打者を打ち取ったのです。公の場で見せたその投球フォームは、長らく本格的な投球練習を行っていなかったとは思えないほど滑らかで、ボールの回転軸もプロの主力投手と遜色ない数値を叩き出していました。
投手転向の真相について、首脳陣や報道各社の取材データを総合すると、単なる打撃の行き詰まりによる「逃げのコンバート」ではありませんでした。背景には以下の明確な根拠が存在していたのです。
第一に、「投げる動作」における天性の身体の使い方です。根尾の肩の強さとしなやかさは野手としても群を抜いていましたが、マウンド傾斜を使って投球する際、下半身から上半身へのエネルギー伝達効率が極めて高いことがバイオメカニクス的にも判明していました。第二に、ストレートの球質と伸びです。リリーフとして登板を重ねる中で、自己最速は155km/hに到達。打者の手元でホップするような特殊な回転軌道を描いており、NPBの並み居る強打者でも容易にバットに当てられない球威を有していました。
立浪監督をはじめとする首脳陣は、根尾の類まれなアスリート能力を最も生かせる場所は外野の定位置争いではなく、勝敗を根底から支配できる「ピッチャーマウンド」であると確信したのです。根尾自身も葛藤を抱えながら、最終的にはチームの勝利に貢献するため、そして自らのプロ野球人生を切り拓くためにマウンドへ専念することを覚悟しました。