退職一時金とは、従業員が自己都合や定年、会社都合などによって会社を退職する際、企業から一括して支払われるまとまった金銭を指します。日常会話では「退職金」という言葉が広く使われますが、人事労務の専門用語として厳密に整理すると、退職給付という大きな枠組みの中に、一括払いの「退職一時金」と、退職後に一定期間または生涯にわたって定期給付される「退職年金(企業年金)」の2系統が存在しています。
ここで多くの人が見落としがちなのが、退職金の支給義務に関する法的位置付けです。厚生労働省の労働基準法関連資料や人事労務規程の公的見解によれば、会社側に退職金を支給する法定義務は存在しません。企業が退職金を支払わなければならないのは、社内の就業規則や労働協約に「退職一時金を支給する」という明確な規定が存在する場合に限られます。厚生労働省が公表している「就労条件総合調査」の実態データでも、日本国内で退職給付制度を導入している企業は約7割から8割程度にとどまり、約2割の中小企業ではそもそも退職金制度が存在しないのが現実です。
また、退職一時金を準備・支給する仕組みも企業規模や業種によって多岐にわたります。自社の利益や準備金から直接賄う「社内準備型(社内積立型)」をはじめ、自前での基金組成が難しい中小零細企業が広く活用する「中小企業退職金共済(中退共)」や各地域の商工会議所が運営する「特定退職金共済(特退共)」、さらには従業員自らが運用指図を行う「企業型確定拠出年金(企業型DC)」などが代表例です。自社がどの受給母体を採用しているかによって、後述する手続きや受取時期、税務申告の要否が大きく左右されます。