顔面への激しい打撃による眼窩底骨折は、物理的な治療期間が終わった後も長期にわたりアーティストの心身を蝕みました。視界の歪みや痛みといった肉体的な後遺症に加え、極限状態を体験したことによる重度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)やパニック障害の悪化は、彼女の表現活動に影を落とすことになります。
2011年に発表された自伝『ボク私名鑑』や当時のメディア取材において、鬼束は自身の精神状態について率直な言葉を残しています。突然襲いかかる激しい恐怖発作や、過呼吸によってステージに立つことすら困難になる日々。「歌うこと」そのものが精神を保つ唯一の命綱でありながら、人前に立つことへの激しい恐怖と背中合わせだった苦悩が吐露されています。
公の場で見せた奇抜なビジュアルチェンジや過激な言動は、当時一部メディアでセンセーショナルに報じられました。しかしその深層には、傷ついた自己を防衛するための鎧(よろい)を纏い、内面の痛みと闘いながら表現者としての自我を必死に保とうとしていた現実が存在していました。SNSやファンコミュニティでは、「あの痛々しい姿の裏にあった苦しみを知り、胸が締め付けられる」「それでも歌を捨てなかった強さに救われた」という深い共感と支持の声が寄せられています。