完全版の出版に至るプロセスには、現代のネット社会が抱える闇を浮き彫りにした前代未聞のトラブルが存在しました。いわゆる「たつき諒なりすまし事件」です。
2020年頃、Twitter(現X)上に「たつき諒」を名乗るアカウントが出現し、かつての漫画執筆時のエピソードや未公開の予言を投稿し始めました。長年沈黙を守っていた作者本人の登場と信じ込んだ大手オカルト系メディアや雑誌編集部が取材を行い、記事を掲載する事態にまで発展したのです。当時、本物のたつき氏は漫画界を完全に引退し、平穏な一般人としての生活を送っていました。
偽者は出版社の企画にまで入り込み、復刊の話を進めていましたが、契約の詰めや身元確認の段階で辻褄が合わない点が露見。最終的に完全な赤の他人による詐称であったことが発覚しました。大切な作品と思想が悪意ある第三者に私物化される危機に直面し、沈黙を破って名乗り出たのが本物のたつき諒氏でした。この緊迫したトラブルが皮肉にも引き金となり、本人の直筆解説と新たな夢日記を網羅した『完全版』の正式刊行という奇跡的な展開へと結実したのです。