ネット上のQ&AサイトやSNSでは、「コーヒーを1杯飲んだくらいで耳が治らなくなるわけがない」「医師から特に禁止されなかったから飲んでいる」といった書き込みが目立ちます。しかし、ここには重大な情報伝達のギャップが潜んでいます。
耳鼻咽喉科の外来現場において、担当医が診察室で「コーヒーを絶対に飲むな」とわざわざ口頭で指示しない理由は、許可しているからではありません。投薬スケジュールや聴力検査、安静の指示といった緊急度の高い説明に追われ、生活指導の細部にまで時間が割けないケースが多いためです。禁忌事項として明言されていないことを「飲んでも安全」と解釈するのは早計にすぎません。
また、耳鳴りとカフェインの相関についても科学的な検証が必要です。カフェインは聴覚野が存在する大脳皮質のニューロン興奮性を引き上げます。難聴に伴って発生する耳鳴りは、脳が失われた周波数の音を必死に補おうとして音響ゲイン(増幅器)を最大化させる現象ですが、カフェインの刺激が加わることで「耳鳴りの知覚音量がより大きく、甲高く感じられる悪循環」に陥ります。「コーヒーを飲んだ直後に耳鳴りがけたたましくなった」と訴える患者が多いのは、まさにこの脳神経の過剰反応が主因です。