更年期治療を巡る情報環境には、昭和・平成初期の古い医学データに基づいた根強い偏見や都市伝説がいまだに残存しています。正しい治療判断のために、代表的な誤解を解消しておきましょう。
「ホルモン補充療法を受けると、女性ホルモン依存性の病気がすべて悪化する」という極端な言説がありますが、これは完全な誤りです。確かに乳がんや重度の肝障害、血栓塞栓症の活動期にある方は禁忌とされますが、一方で骨粗しょう症の予防、脂質代謝の改善(悪玉コレステロールの低下)、動脈硬化の進行遅延など、閉経後女性の長期的な健康寿命を延伸させる数々のベネフィットが科学的に立証されています。
また、「HRTは何歳からでも始められ、何歳まででも続けられる」という認識も盲点を含んでいます。医学的には「ウィンドウ・オブ・オポチュニティ(治療の好機)」と呼ばれ、閉経後10年以内、あるいは60歳未満で治療を開始することが心血管系への好影響を最大化しリスクを最小化するとされています。閉経から長期間が経過して血管壁の老化が進んだ後にいきなり開始すると、かえって血栓リスクが高まるため、始めるタイミングの見極めが極めて重要です。