SNSやネット掲示板上では「裁縫針を火で炙って消毒し、プチッと刺せば白い玉がコロンと取れた」「先端が細いピンセットで強く押し出せば自分で取れる」といった民間療法の体験談が散見されます。しかし、臨床現場の皮膚科医たちは口を揃えて「顔、とりわけ目の周りの稗粒腫を自力で取る行為は絶対に避けてほしい」と警鐘を鳴らしています。
なぜ、家庭での自己処置がこれほどまでに危険視されるのか。そこには取り返しのつかない3つの医学的リスクが存在します。
第一のリスクは、「不可逆的な瘢痕(クレーター状の凹み・傷跡)」の形成です。稗粒腫の正体は角質が詰まった強固な「袋」です。内容物を完全に外へ出すためには、覆っている表皮を物理的に切開しなければなりません。しかし、一般家庭で清潔なメスや極細針を用いずに裁縫針や安全ピンで皮膚を突き刺すと、表皮だけでなく真皮層まで無駄に深く傷つけ、組織を挫滅させてしまいます。一度破壊された真皮の膠原線維は完全には元に戻らず、一生残る小さな陥凹(穴)やケロイド状の隆起を引き起こします。
第二のリスクは、「炎症後色素沈着(PIH)によるシミ化」です。ピンセットなどで皮膚を強く圧迫して無理やり押し出そうとすると、周辺の毛細血管が破綻して内出血を起こすだけでなく、過剰な刺激によってメラノサイトが活性化します。本来であれば直径1ミリの目立たない白い粒だったものが、自力処置の失敗によって直径数ミリの黒ずんだ茶色いシミへと変貌し、かえって目立ってしまうケースが極めて多いのです。
第三のリスクは、「雑菌の侵入による重度感染症と蜂窩織炎」です。ライターで針先を炙る程度の加熱では、医療用の完全滅菌(オートクレーブ等)には程遠く、手指や皮膚表面の常在菌(黄色ブドウ球菌など)を傷口の奥深くに押し込む結果となります。特に眼球周辺は血流が豊富で中枢神経にも近いデリケートな部位であり、細菌感染が深部に波及した場合、まぶた全体が腫れ上がる蜂窩織炎(ほうかしきえん)や眼周囲膿瘍など、視覚機能にも影響を及ぼしかねない重大な事態に発展する恐れがあります。