インターネット上の動画やSNSでは、「塩素系漂白剤を薄めて塗ればシミが瞬時に消える」という裏ワザが紹介される場面が見受けられます。しかし、古文書修復や製本工学の観点から見ると、紙に対する塩素系漂白剤の使用は極めて危険な行為です。
次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする塩素系漂白剤は酸化力が強烈すぎるため、紙の主骨格であるセルロース繊維を急速に断裂させます。処置直後は見かけ上白くなったように見えても、数カ月から数年後には薬剤が塗布された部分から紙がボロボロと崩壊し、回復不能な穴あき状態に陥ります。どうしても化学的な脱色を試みる場合でも、過酸化水素水(オキシドール程度)をさらに精製水で希釈し、綿棒の先端を湿らせる程度の極微量にとどめ、処置後は水分を完璧に吸い取って乾燥させる工程が絶対に欠かせません。
また、「水拭きでシミをこすり落とす」という行為も初心者が陥りがちな過ちです。水分を吸収した紙は引張強度が著しく低下し、わずかな摩擦で表面が毛羽立ち、繊維が破断します。乾燥時に起きる「コックリング(紙の波打ち歪み)」を防ぐためにも、水分の使用は常に最小限に留めるのが鉄則です。